仮想通貨取引について調べていると、仮想通貨取引で気を付けなければならないことの筆頭に詐欺事件が出てきますよね。そんな詐欺事件について調べてみると、仮想通貨史上最大の詐欺事件とも呼ばれている「FTX事件」という事件の記事を目にすることも多いと思います。そこで今回は、「FTX事件って何?」「名前は知ってるけど、結局何が起こってどうなったの?」「当時最大手の取引所だったFTXが破綻した理由やその影響は?」といった疑問をお持ちの方に向けて、FTX事件を時系列順に振り返りながら、わかりやすくまとめていきます。過去の事件について知ることは、今後、自身が詐欺被害に遭わないために非常に重要ですので、これから取引を始めようという方も、取引を既にしているという方も、ぜひ最後までご覧ください。この記事の要約FTXとは、2019年に設立されたデリバティブ取引に特化した取引所。FTX事件は、2022年にFTXが資金繰りの不安から取り付け騒ぎが発生し、その出金要求に対応できず破産。その後、調査の結果、ずさんな経営状況や顧客資産の不正流用が明らかになり創業者が逮捕された一連の事件。FTX破綻の理由として、姉妹会社への不正な資産の流用、ずさんな経営と内部統制の欠如、FTTトークン依存の資金繰りが挙げられる。FTX破綻の影響は、関連企業や投資家への甚大な被害のみならず、各国の仮想通貨に対する規制強化にまで及んだ。FTX事件では、信用できる取引所を選択し、分散投資などリスク管理を徹底することの重要性を教訓として得られる。FTXとは?最近になって仮想通貨取引を始めた方は知らない方も多いと思いますので、そもそもFTXとは何なのか、まず紹介していきます。FTXとは、正式名称はFTX Trading Ltd.というバハマに拠点を置く仮想通貨取引所で、2019年にサム・バンクマン・フリード氏とゲイリー・ワン氏によって設立されました。FTXは「Futures Exchange」の略で、デリバティブ取引に特化した取引所として発展していきました。2021年にピークを迎えた時にはユーザー数は百万人を超えており、取引高ベースでは世界で三番目の規模の仮想通貨取引所となっていました。ですが、2022年11月にずさんな経営体制や独自トークンに依存した財政などにより経営破綻となり、投資家の資産などに甚大な被害を及ぼしました。FTX事件の時系列まとめFTX破綻までの出来事を時系列順に見ていきましょう。2019年~:FTX設立と成長2019年、FTXはサム・バンクマン・フリード氏とゲイリー・ワン氏によって設立されました。設立後間もなく、2019年5月に独自トークンであるFTT(FTX Token)をローンチし、資金調達を進めました。2020年には仮想通貨資産管理アプリBlockfolioの買収など、取引所だけに留まらず仮想通貨関連事業を拡大し、2021年にはソフトバンクなどの投資家から9億ドルを調達し急速に発展していきました。事業が発展していくと同時に、FTTの価格も急上昇し、ローンチ時点では1FTTあたり180円前後だったところから、2021年のピーク時には8,500円に達するほどとなりました。2022年11月初め:資金繰り不安の噂2022年11月初め、これまで順調だったFTXに資金繰りの問題が指摘されます。FTXと同じくサム・バンクマン・フリード氏が設立した仮想通貨投資を専門とする企業「アラメダ・リサーチ」の総資産約146億ドルの内、およそ半分がFTTであることが仮想通貨ニュースメディアにより報道されました。この報道により、FTXとアラメダ・リサーチの間で不適切な資金の流れがあるのではないかとの疑念が生まれ、アラメダリサーチがFTTを担保に多額の借り入れを行っていたとの指摘もあり、FTTおよびFTXに対する信頼が揺らいでいきました。これにより、FTTの価値は大きく低下していくことになります。2022年11月6日:バイナンスがFTTトークンの大量売却を発表2022年11月6日、当時のバイナンスのCEOチャンポン・ジャオ氏が、FTTの大量売却を発表しました。バイナンスはこの発表時点で約2300万FTTを保有していましたが、これらすべてを売却するとしました。FTTの価格に多大な影響が出ることを危惧したためか、アラメダ・リサーチが1FTTあたり22ドルでの買取を提案するも、バイナンスに無視されます。この当時、1FTTあたり3,000円程度、米ドル換算では22ドル前後、つまりアラメダ・リサーチは時価を保つ形で買取を提案したわけですが、これが無視されたことによってFTTは大きく価格を落とすことになります。2022年11月9日:取り付け騒ぎの発生2022年11月9日、多くのユーザーがFTXから資金を引き出そうとする取り付け騒ぎが発生します。ことの発端は、11月8日、FTXが関連会社との取引で資金繰りが切迫していたところバイナンスに支援を求め、これに応える形でバイナンスが米国以外のFTXの事業を救済買収する方針で両社合意しましたが、バイナンスが9日になってこれを撤回したのです。理由は、バイナンスがFTXのデューデリジェンス(資産査定)をした結果、「手に負えない」と判断したからとのことでした。これにより、FTXの資金繰り及び経営状況が周知される事態となり、取り付け騒ぎへと発展しました。さらに、同日深夜、FTXは出金を停止。出金を停止するということは、FTXが顧客の資産を正常に返還することができないほど危機的な状況であることを知らせるも同じですので、市場はパニックに陥りました。これにより、FTTはそれまで1FTTあたり3,000円程度だったところから300円程度、実に十分の一にまで急落。これにより翌10日、アラメダ・リサーチは解散を発表、そして、FTX本社があるバハマ当局がFTXの資産を凍結、続いて日本でもFTX Japanに対して業務停止命令が下されました。2022年11月11日:FTX破産申請へ2022年11月11日、FTXと関連会社は米国にて破産保護申請を行いました。これと同時に、サム・バンクマン・フリード氏はFTXのCEOの退任を発表、次のCEOには企業再建のスペシャリストであるジョン J. レイ氏が就任することとなりました。FTXは100億ドルから500億ドルの範囲で資産と負債を有しており、債権者は10万人を超えると推測されました。ジョン J. レイ氏は後に「私のキャリアの中で、これほど企業統制の完全な失敗を見たことはない」と語っており、その内容の凄惨さがうかがえます。2022年11月半ば~:関係者の逮捕、有罪判決へ破産申請以後、関係者の調査や逮捕、裁判が進められていきました。12月12日、バハマ当局によりサム・バンクマン・フリード氏が逮捕され、翌13日にマネーロンダリングなど8つの刑事訴訟が氏に対して起こされました。12月19日、アラメダリサーチ元CEOのキャロライン・エリソン氏とFTXの共同創業者であるゲイリー・ワン氏が詐欺の罪を認め、捜査の協力に同意。そして、2023年、サム・バンクマン・フリード氏は7つの罪で有罪となり、2024年に禁錮25年、110億ドルの資産没収が言い渡されました。破綻の理由時系列を見たところで、破綻の主な理由を詳しく見ていきましょう。アラメダ・リサーチへの顧客資産流用破綻の最大の要因として挙げられるのは、アラメダ・リサーチへの顧客資産流用です。FTXは顧客から預かった資産160億ドルの内、100億ドル以上をアラメダ・リサーチに不正に貸し付けていたとされ、これらはアラメダ・リサーチの投機やFTXの事業拡大に用いられたとされています。これらの不正は、長期的かつ組織的に行われたかなり悪質なもので、サム・バンクマン・フリード氏がアラメダ・リサーチに対して直接指示して行っていたことがわかっています。実際に資金繰り不安が事実だったことと、またこの顧客資産の不正流用とFTTが大暴落した際の資金的ダメージが重なり、結果的に取り付け騒ぎの出金要求に対応できず、大きな混乱を引き起こしました。ずさんな経営と内部統制の欠如時系列まとめでも紹介したジョン J. レイ氏がその凄惨さを「完全な失敗」と語ったように、FTX内部の経営体制は非常にずさんなものでした。そのずさんさはひどいもので、まず財務部門がそもそも存在せず、現金や銀行口座の管理もされておらず、正常な会計処理が行われていませんでした。また、取締役会や社外取締役が存在せず、サム・バンクマン・フリード氏ら創業者への権力集中が起こっており、ずさんな経営体制にメスが入る余地がありませんでした。FTTトークン依存の資金繰りFTXはアラメダ・リサーチを通して、アラメダ・リサーチの保有資産の大半を占めるFTTを担保に多額の借り入れを行っていました。これにより、FTTの価値が急落すると一気に財務状況が悪化する状態となっており、実際にFTTの価値の暴落が発生したため、資金難に陥り破綻の一因となりました。破綻後の影響破綻後の仮想通貨業界への影響を見てみましょう。投資家・関連企業への損害まず、投資家や関連企業への甚大な損害が挙げられます。関連企業への損害としては、レンディング企業BlockFiがFTXからの融資返済を受けられず、破産申請をするなど、FTXの周囲に留まらずFTXと融資といった形で関わった企業にまで大きな損害が及びました。投資家の中では、オンタリオ州教職員年金基金がFTXに投資していた約9500万ドルを失うなど、出金ができなくなった個人投資家だけでなくこうした機関投資家にも甚大な被害が発生しました。暗号資産業界全体への信用低下FTXの破綻は、当時取引高で世界三位の規模であった取引所のずさんな経営状況が明るみになったため、暗号資産業界全体の信用低下へと繋がりました。それを示すように、仮想通貨市場全体の流れを左右するビットコインの価格が、FTXの破綻を機に1BTCあたり300万円ほどだったところから200万円にまで急落しました。また、これを機に各国の規制当局が動き出し、米SECでは当時の委員長ゲンスラー氏が事業者登録など規制強化の重要性を指摘するなどし、日本でも金融庁が仮想通貨のデリバティブ取引の規制強化に動くなど業界全体として各国から規制強化を受ける形となりました。取引所選びやリスク管理を徹底しようFTX事件からは、各国や各取引所が教訓を得て規制・管理強化をしていきましたが、個人投資家もここから得られる教訓があります。取引所は大手企業だからといって何も調べずに信用してはならない分散投資などリスク管理を徹底するここで何度も書いているように、FTXはDEXでもぽっと出の怪しい取引所でもなく、当時世界第三位の取引高を誇っていた大手の取引所で、そんな取引所でもこうしたずさんな経営をしていたり、破綻したりといったことは起こり得ます。もちろん、調べたからといってFTXの財政状況を見抜けたかというと難しかったとは思いますが、現在では金融庁の認可など信頼できる取引所か確認する手段も多いですので、新しい取引所を利用する際には必ず公的機関からの認可があるかなどを確認しましょう。次に、分散投資などのリスク管理を徹底しましょう。FTX事件の場合、FTTが急落を起こしたため、たとえ出金できなかった資産が後に返還されたとしてもFTTのみに投資をしていた投資家は大損失を受けたことになります。ミームコインなどのそもそもハイリスクな通貨は慎重に投資をするかと思いますが、FTTのような企業の独自トークンも発行企業や関連企業の動きの影響を直接受ける場合があり、仮想通貨市場全体の景気と関係なく急落のリスクがあります。今回の場合は独自トークンでしたが、どのような通貨でも急落のリスクはありますので分散投資を徹底することを忘れないようにしましょう。まとめここまでFTX事件について、時系列順の出来事とその影響を解説してきました。FTX事件はその影響の大きさから仮想通貨史上最大の事件と呼ばれることもあり、大変な損害を出した事件である一方、現在の規制を形作る契機ともなった事件です。仮想通貨取引をしていく上で、さまざまな規制は時に煩わしく感じることもあると思いますが、こうした事件を知っておくことで規制の必要性を認識しておくことは不用意に取引に手を出さないためにも重要です。また、この事件は企業の破綻や特定の通貨の暴落の非常にわかりやすい一例ですので、この典型的な暴落の流れから、リスク管理をしていなければこんな流れで暴落に巻き込まれる可能性があるという教訓を得ることができます。FTX事件以外にも仮想通貨関連の大きな事件はありますので、一度調べてみて、今後の投資におけるリスク管理に生かしてみてはいかがでしょうか。関連記事仮想通貨の詐欺事件まとめ!逮捕者が出た事例や見分け方・回避方法について解説コインチェック事件とは?経緯や原因・犯人・事件のその後を徹底解説マウントゴックス(Mt.Gox)事件とは?いつ起きた?ビットコイン消失の全貌とその後を徹底解説