2024、2025年とビットコインをはじめ、仮想通貨の価格が上昇傾向にあるため、仮想通貨への投資は大きな注目を集めており、多額の利益を得ている個人も少なくありません。その一方で、仮想通貨の税金は複雑で、どのように税金対策をすれば良いのか悩んでいる方もいるでしょう。特に、利益が大きくなってきた際に検討されるのが「法人化」です。しかし、以下のような疑問を抱いている人もいるのではないでしょうか?「仮想通貨での法人化のメリットってなに?」「法人化のデメリットや注意点はある?」「法人化ってどうやるの?設立方法は?」そこで本記事では、個人事業主と法人の税制の違い仮想通貨取引において法人化のメリット・デメリットとは法人化の注意点や気をつけること法人化の具体的なやり方について網羅的に説明していますので、仮想通貨の利益を最大化し、適切な税金対策を行いたいと考えている方はぜひ参考にしてください。※本記事は2025年7月時点の法令をもとに執筆しています。税制は変更される可能性があるため、最新の情報をもとに、専門家とよくご相談のうえご判断ください。この記事の要約仮想通貨の税金は、個人の場合と法人化した場合で大きく異なる。個人の税率は最大55%だが、法人は最大34%程度法人化の主なメリットは、税率の軽減、損益通算の範囲の広さ、経費にできる範囲の広さ、社会的信用の向上など一方で、設立・維持コスト、事務処理の複雑化、含み益への課税、法人銀行口座の開設が必要となる手間やデメリットもある法人設立の流れや仮想通貨の移管・管理方法、含み益の処理やサラリーマンの副業規定との兼ね合いなど、法人化には多くの注意点がある個人事業主と法人の仮想通貨の税制の違いとは?仮想通貨取引から得られた利益に対する税金は、個人として取引を行う場合と法人として取引を行う場合とで大きく異なります。この違いを理解することは、適切な税金対策を講じる上で非常に重要です。区分個人(雑所得)法人税率〜55 %(累進課税+住民税)実効税率〜約34 %※800 万円以下部分の実効税率は約21〜23 %程度(都道府県・資本金規模で変動)損失繰越×(通算・繰越不可)○ 最長10年経費の範囲限定的広いまず、個人が仮想通貨取引で得た利益は「雑所得」に分類され、所得税の対象となります。所得税は累進課税制度が採用されており、所得が増えるほど税率が高くなります。具体的には、所得税と住民税を合わせると最大で55%(所得税45%+住民税10%)の税率が適用される可能性があります。さらに、損失が出た場合でも、他の所得との損益通算が認められておらず、翌年以降への損失の繰り越しもできません。経費として認められる範囲も法人よりも限定されています。一方、法人として仮想通貨取引を行う場合、利益は法人税の対象となります。法人税の税率は、法人の規模や所得額によって異なりますが、実効税率は〜約34%程度です。個人の税率と比べると、高所得者にとっては法人の方が税率が低くなる傾向がありますので、利益規模が大きいほど法人税率の方が有利になります。また、法人税では、仮想通貨取引で発生した損失を最長10年間繰り越して、将来の利益と相殺することが可能です。これにより、税負担を軽減できる場合があります。経費として認められる範囲も個人に比べて広範であり、PCや通信費、書籍代、セミナー参加費、出張費など、事業に必要な様々な費用を経費として計上できます。このように、個人の場合と法人の場合では、税率、損益通算、経費計上の範囲など、税制面で大きな違いがあります。したがって、仮想通貨の利益が大きくなるにつれて、法人化を検討することの税務上のメリットは増していきます。ただ、これだけを聞くと、「ある程度の年間利益があれば法人化した方が絶対いいじゃん!」と思うかもしれませんが、法人化にはもちろんデメリットもあります。次の章でも説明していきますが、法人の場合は個人ではかからなかった費用が予想以上に発生する可能性があったり、設立した法人の利益から自分(個人)へお金を移動した場合には法人税と個人の所得税とそれぞれで税金がかかったりします。ですので、個人の場合よりも手元に残るお金が少なくなってしまう可能性もあるため、安易に法人化するのはおすすめしません。この後解説する法人化のメリット・デメリットや注意点などをしっかりと理解した上で、税理士等と相談して判断するようにしましょう。仮想通貨の法人化のメリット4選仮想通貨取引において法人化することには、個人として取引を続けるよりも多くの税務上・事業上のメリットがあります。税率の軽減法人化の最大のメリットの一つは、税率の軽減です。個人の場合、仮想通貨の利益は雑所得として、他の所得と合算され、最大で所得税45%+住民税10%の合計55%の税率が適用される可能性があります。これに対し、法人の場合、法人税の実効税率は〜約34%程度です。例えば、課税所得800万円以下の普通法人の実効税率は約21〜23 %程度(都道府県・資本金規模で変動)になります。所得が増えれば増えるほど、個人の累進課税の負担は重くなるため、年間所得が数千万円など、ある程度の利益が出ている場合は、法人化した方が税率が低くなり、手元に残る利益を最大化できる可能性が高まります。損益通算の範囲が広い個人の仮想通貨取引の利益は雑所得であり、損失が出た場合でも、他の所得(給与所得や事業所得など)との損益通算は認められていません。また、損失を翌年以降に繰り越すこともできません。そのため、年間で多額の損失が出た場合でも、翌年に利益が出ても税金を軽減することはできません。一方、法人の場合は、仮想通貨取引で発生した損失を最長10年間(青色申告法人の場合)繰り越して、将来の利益と相殺することが可能です。例えば、ある年に仮想通貨で大きな損失を出した場合でも、翌年以降に利益が出れば、その損失と相殺することで法人税の負担を軽減できます。これは、変動の激しい仮想通貨市場において、リスクヘッジの観点からも非常に大きなメリットとなります。また、法人の事業活動全体で発生した損失と相殺できるため、より柔軟な税務戦略が可能になります。ただし、個人で含み損がある状態で法人化し、その仮想通貨を法人に移管した場合は、個人として損失が発生しますので、法人側で損益通算はできませんのでご注意ください。経費にできる範囲が広い個人事業主と比較して、法人では経費として認められる範囲が格段に広がります。これにより、課税所得を減らし、節税効果を高めることができます。例えば、以下のような費用を経費として計上することが可能です。事業用資産の購入仮想通貨取引に必要な高性能PC、モニター、専門ソフトウェアなどの高額な設備は、法人として購入すれば経費に計上しやすくなります。交際費事業に関連する会議費や接待交際費なども、一定の範囲内で経費として認められます。これらの費用を適切に経費として計上することで、課税所得を減らし、法人税の負担を軽減することができます。社会的信用の向上法人化することで、個人事業主と比較して社会的信用が向上するというメリットもあります。そのため、事業資金の調達が必要になった際、法人の方が金融機関からの融資を受けやすくなります。仮想通貨の法人化のデメリット4選仮想通貨取引における法人化は多くのメリットをもたらしますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解し、自身の状況に照らし合わせて検討することが重要です。設立・維持コストがかかる法人を設立し、維持するためには、個人事業主にはかからない様々なコストが発生します。設立費用株式会社を設立する場合、定款認証手数料(約5万円)、登録免許税(最低15万円)、印鑑証明書取得費用など、合計で約20万円〜30万円程度の費用が必要です。税理士報酬複雑な法人税の申告や日々の経理業務を適切に行うためには、税理士との顧問契約が必要になる場合が多く、月額数万円〜数十万円程度の報酬が発生します。法人住民税の均等割法人税の所得割とは別に、赤字の場合でも年間約7万円程度の法人住民税の均等割が発生します。これらのコストは、仮想通貨取引の利益が安定して高水準でなければ、かえって負担となる可能性があります。事務処理が複雑になる個人事業主と比較して、法人では経理や税務に関する事務処理が格段に複雑になります。複式簿記法人では、日々の取引を複式簿記で記帳し、損益計算書や貸借対照表などの決算書を作成する必要があります。法人税申告個人事業主の確定申告に比べて、法人税の申告書は作成が複雑であり、専門的な知識が求められます。税務調査のリスク法人化すると、個人事業主よりも税務調査の対象となる可能性が高まります。これらの事務処理を自社で行う場合は、専門知識の習得と時間が必要となり、外部に委託する場合は税理士報酬が発生します。含み益にも課税される個人の場合、仮想通貨の含み益に対しては課税されず、実際に売却して利益が確定した時点で課税されます。しかし、法人化した場合は、一般的に期末時点での含み益に課税されてしまいます(期末時価評価)。これは、仮想通貨の価格変動が激しい場合、納税資金の確保に苦慮する可能性があるため、特に注意が必要です。ただし、以下のいずれかに該当すれば期末時価評価をしなくてもよい、つまり含み益があっても課税されない仕組み(期末時価評価適用除外)が設けられています。特定自己発行暗号資産特定譲渡制限付暗号資産特定自己発行暗号資産とは定義① 自社が発行し、発行時から継続して自社が保有② 他者へ移転できないよう技術的措置、または信託スキームで1年以上の譲渡制限が掛かっている期末評価方法原価法のみ(取得価額のまま)失効タイミングロック解除や第三者への譲渡が可能になった時点で、市場暗号資産として時価評価課税の対象へ切替特定譲渡制限付暗号資産とは定義① 他社が発行した暗号資産② 移転制限の技術的措置や信託で1年以上ロック③ “保有者が勝手に解除できない” ことを第三者(交換業者など)が確認できる期末評価方法時価法 or 原価法を取得時に選択可(どちらかを選択して届出が必要)評価方法の変更後から変えたい場合は、事業年度開始日前日までに税務署長の承認が必須法人として期末時価評価を行わない場合には、特定譲渡制限付暗号資産として届け出を行うという事が考えられますので、必要に応じて検討してもよいかと思います。また、期末時価評価の適用除外について詳しく知りたい方はこちらの金融庁の資料をご覧ください。法人銀行口座の開設が必要法人化すると、事業用の銀行口座を開設する必要があります。個人の口座とは完全に分離し、法人の資金管理を明確にするためです。開設に時間がかかる場合がある近年、マネーロンダリング対策の強化により、法人の銀行口座開設の審査が厳しくなっており、開設までに時間がかかったり、開設を断られたりするケースもあります。仮想通貨交換業者との連携法人名義の銀行口座を、利用する仮想通貨交換業者に登録し、資金の入出金に利用する必要があります。口座開設の遅延や困難は、事業活動の開始に影響を与える可能性があるため、法人設立と並行して早めに手続きを進めることが推奨されます。法人化する際の注意点仮想通貨取引のために法人化を検討する際には、メリット・デメリットだけでなく、いくつかの重要な注意点があります。これらを事前に把握し、対策を講じることが、スムーズな法人運営と節税対策の成功に繋がります。保有している仮想通貨の移管時の計算処理個人で保有していた仮想通貨を法人に移管する際、その移管方法によって税務上の取り扱いが大きく異なります。適切な評価額の算定個人側で、移管する仮想通貨の数量、種類、取得単価、移管時の時価などを正確に把握し、適切な評価額を算定することが重要です。特に複数の仮想通貨を保有している場合や、頻繁に取引を行っている場合は、複雑な計算が必要となります。税務上の問題を避けるためにも、移管前に必ず専門家と相談し、最適な移管方法と計算処理を確認しましょう。個人から法人へ移管した時のみなし譲渡法人設立時に現物出資や法人への譲渡(売却)といった形で仮想通貨を法人に移管する場合、その時点でみなし譲渡が発生し、個人側に含み益が発生していれば、その含み益に対して所得税(雑所得)が課税されます。仮想通貨の取得価額の引き継ぎ個人の時に取得した仮想通貨を法人に移管する場合、法人での取得価額をどのように設定するかによって、将来の売却益に影響が出ます。個人からのみなし譲渡の価格を法人の取得価額とすることが一般的ですが、その税務上の取り扱いは専門家と相談することをお勧めします。売却損益の計上一度個人で仮想通貨を売却し、現金化してから法人に送金する方法を取る場合、売却益が出れば個人に課税されます。売却損が出た場合も個人での損益となりますが、雑所得の損益通算は限られている点に注意が必要です。サラリーマンが法人化する場合の副業規定との兼ね合い会社員(サラリーマン)が仮想通貨取引の法人化を検討する場合、勤務先の副業規定との兼ね合いに注意が必要です。副業禁止規定の確認多くの企業では副業を禁止している、または許可制としている場合があります。仮想通貨取引の法人化が、この副業規定に抵触しないか、事前に就業規則を確認することが重要です。秘密保持義務・競業避止義務会社の情報や技術を利用して法人を設立する、または会社の事業と競合する事業を行う場合、秘密保持義務や競業避止義務に違反する可能性があります。会社への報告・許可勤務先が副業を許可している場合でも、法人設立の事実を会社に報告し、許可を得る必要がある場合があります。無許可で法人を設立し、それが会社に知られた場合、懲戒処分の対象となるリスクがあります。法人化は「事業」とみなされるため、個人で仮想通貨取引を行うよりも、副業規定に抵触する可能性が高まります。トラブルを避けるためにも、事前に勤務先の規定をよく確認し、必要であれば会社に相談することが賢明です。法人化のやり方とは?仮想通貨取引のために法人化を決意した場合、具体的な手続きを進める必要があります。ここでは、法人設立の一般的な流れと、仮想通貨の移管・管理方法について解説します。法人設立の流れ株式会社を設立する場合の一般的な流れは以下の通りです。基本事項決定(商号・目的に「暗号資産売買」等を明記)電子定款作成・認証(印紙4万円節約)資本金払込(発起人個人口座)設立登記(法務局)税務・社会保険届出法人銀行口座開設(並行で早めに申請)1. 会社基本事項の決定会社名(商号)、事業目的、本店所在地、資本金、役員構成、事業年度などを決定します。特に事業目的には、仮想通貨取引に関連する記述(例: 仮想通貨の売買、ブロックチェーン技術の研究開発など)を盛り込む必要があります。2. 定款の作成・認証定款とは、会社の根本規則を定めたもので、公証役場で認証を受ける必要があります。電子定款を利用すれば、印紙税4万円が不要になります。3. 資本金の払い込み決定した資本金を、発起人(設立者)の個人口座に払い込みます。4. 会社設立登記定款認証後、管轄の法務局に会社設立登記を申請します。登記が完了した日が会社設立日となります。5. 税務署等への届出会社設立後、税務署、都道府県税事務所、市町村役場に法人設立届出書などを提出します。必要に応じて、社会保険事務所への加入手続きも行います。これらの手続きは、自身で行うことも可能ですが、司法書士や行政書士に依頼することで、スムーズかつ正確に進めることができます。6. 法人銀行口座の開設設立した法人の名義で銀行口座を開設します。仮想通貨の移管・管理方法法人設立後、個人で保有していた仮想通貨を法人に移管する場合があります。この際の移管方法や、法人の仮想通貨管理には注意が必要です。移管方法の検討方法詳細売却して法人に送金個人の仮想通貨を一度売却し、日本円にしてから法人に送金する方法です。この場合、個人で売却益が発生すれば、個人に雑所得として課税されます。現物出資個人で保有している仮想通貨を、法人の資本金として現物出資する方法です。この場合、仮想通貨の評価額が資本金の一部となりますが、税務上の評価や手続きが複雑になるため、税理士との相談が必須です。法人への譲渡個人が法人に仮想通貨を売却する形をとる方法です。この場合も、個人に譲渡益が発生すれば課税対象となります。仮想通貨の管理方法詳細法人名義の取引口座法人として仮想通貨取引を行う場合、必ず法人名義で仮想通貨交換業者に口座を開設し、取引を行う必要があります。個人の口座と混同しないように厳重に管理しましょう。ウォレット管理法人保有の仮想通貨をウォレットで管理する場合も、個人のウォレットとは完全に分離し、セキュリティ対策を徹底することが重要です。秘密鍵の管理体制や、複数人での管理体制の構築なども検討が必要です。帳簿付け仮想通貨の取得単価、売却価格、手数料、送金履歴など、全ての取引履歴を正確に記録し、帳簿に反映させる必要があります。これにより、適切な損益計算が可能になります。仮想通貨の移管や管理は、税務上の影響が大きいデリケートな部分です。必ず仮想通貨に詳しい税理士に相談し、適切な方法を選択し、管理体制を構築するようにしましょう。まとめ本記事では、仮想通貨取引における法人化について、そのメリット・デメリット、注意点、具体的なやり方について詳しく解説しました。仮想通貨取引の利益が大きくなり、税負担が重くなってきた際には、法人化が有効な節税対策となり得ます。個人の累進課税と比較して法人税率が低いこと、損益通算の範囲が広いこと、経費にできる範囲が広いこと、社会的信用が向上することなど、多くのメリットを享受できる可能性があります。しかしその一方で、設立・維持コストの発生、事務処理の複雑化、含み益への課税リスク、法人銀行口座の開設の難しさといったデメリットも存在します。また、仮想通貨の移管時の計算処理や、サラリーマンの副業規定との兼ね合いなど、法人化には細心の注意を要する点が多数あります。これらのメリットとデメリット、そして注意点を十分に理解した上で、ご自身の仮想通貨取引の状況や将来の計画に照らし合わせ、法人化が本当に最適な選択であるかを慎重に検討することが重要です。関連記事【法人向け】仮想通貨(暗号資産)を取り扱う事業者が支払う税金は?計算方法も紹介仮想通貨(暗号資産)取引の仕訳作成方法!会計ソフトへのインポートまで紹介【法人向け】クリプトリンクで簡単にできる期末処理と報告書の作成方法を解説