「リップル裁判」という一連の訴訟騒動をご存知でしょうか?仮想通貨投資を行っている方、中でもリップルが発行するXRPに投資を行っている方は、この騒動の行方を固唾を飲んで見守っていたことでしょう。ですが、このリップル裁判は仮想通貨の法規制がまだ未熟であった部分も訴訟に関係しており、複雑になっているので内容をあまり詳しく知らない方も少なくないと思います。そこで本記事では、リップル裁判って聞いたことはあるけど、どんな内容?ニュースでたまに見るものの、経緯や現状がわからない結局、裁判の行方はどうなったの?このような疑問をお持ちの方向けに、リップル裁判の経緯や現状をわかりやすく解説していきます。※仮想通貨XRPをリップルと呼ぶことがありますが、本記事では区別のため仮想通貨XRPを「XRP」、XRPを発行する企業Ripple Labs Inc.を「リップル」と記述します。この記事の要約リップルとは、カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くXRPの発行元企業で、XRPはリップルが管理運営を行っている中央集権的な仮想通貨SECとは、米国証券取引委員会の略称で、証券市場における不正行為の監視、投資家保護、公正な市場形成などの役割を担う組織リップル裁判とは、2020年にSECがリップルを提訴したところから2025年に双方の和解合意・控訴取り下げに至るまでの一連の訴訟騒動のことリップル(XRP)とは?まず最初に、リップルおよびリップルの発行する仮想通貨XRPについて紹介します。リップルは正式には「Ripple Labs Inc.」であり、米国のカリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くフィンテック企業です。Mt.Goxの創業者としても知られるJed McCaleb氏によって2012年に「NewCoin, Inc.」として設立され、その後「OpenCoin, Inc.」という名称を経て、2013年に「Ripple Labs」の名称になりました。リップルはXRPの発行元として知られていますが、それだけでなく以下のようなXRPやそのネットワークを基盤としたさまざまなプロダクトを展開しています。Ripple Payments:分散型決済ネットワークRipple Custody:デジタル資産カストディソリューションRipple USD:米ドル連動型ステーブルコインプロジェクト などそんなリップルが発行しているXRPは、2013年1月に発行された仮想通貨です。XRPは以下のような特徴を持っています。リップルが管理運営を行っている中央集権的な仮想通貨PoC(プルーフオブコンセンサス)という独自のコンセンサスアルゴリズムを導入しており、高速で低コストな取引が可能1,000億枚の発行上限まで発行済みで、リップルによって市場への供給が調整されているXRPの価格は今回紹介するリップル裁判の動向に強く影響を受けており、リップル裁判に関する発表がある度に大きく値を動かしてきました。SEC(米国証券取引委員会)とは?SECとは米国証券取引委員会"Securities and Exchange Commission"の略称で、1934年に設立された連邦政府機関です。米国における株式や公社債などの証券取引を監督・監視する機関で、主に以下の役割を担っています。証券市場における不正行為の監視投資家保護公正な市場形成 など仮想通貨関連では、リップル裁判などに代表される不正・違法と思われる取引行為を監視し、時に訴訟を提起することも役割の一つです。リップル裁判以外の訴訟では、2023年にBinanceおよびその創設者のChangpeng Zhao氏に対して適切な登録なしでの運営などを理由に訴訟を提起し、続けてCoinbaseを未登録の証券取引所の運営などを理由に訴訟した出来事が話題となりました。また、最近ではビットコインを始めとする各種通貨のETFの申請を受け、監査・承認を行う機関として、仮想通貨に関する報道で目にする機会が多いですね。リップル裁判の概要リップル裁判とは、2020年にSECがリップルを提訴したところから2025年に双方の和解合意・控訴取り下げに至るまでの一連の訴訟騒動です。騒動の発端としては、2020年12月、SECはリップルが2013年以降、登録されていない証券であるXRPの販売を通じて約18億ドルを調達したと主張し、これが米証券法違反に該当するとしてリップルとその共同創業者であるChris Larsen氏とBradley Kent Garlinghouse氏を相手に訴訟を提起しました。これだけでは単に「ああ、リップルが何か違反したんだな」というように見えますが、この裁判の最大の争点は「XRPが証券かどうか」の部分です。この裁判では「XRPが証券である」と認められればSECの提起通り米証券法違反に該当しますが、「XRPは証券でない」と判断された場合、特に問題ないことになります。当時、SECは以前からビットコインとイーサリアムは証券ではないとの見解を示していましたが、XRPについては特に明確な見解は示していませんでした。そのため、このリップル裁判が行われた期間中、仮想通貨を証券とするかどうかといった観点だけでなく、中央集権的な性質を持つXRPなど一部銘柄は証券として扱うべき、などといった意見も出るなど、さまざまな議論がされました。つまり、このリップル裁判は、単にSECがリップルを米証券法違反として提訴した行方を見守るだけのものではありませんでした。現状不明確な「仮想通貨、あるいはXRPなど一部銘柄が証券に該当するかどうか」に対して裁判所がどのような判断を下すか、という部分が今後の仮想通貨業界に大きな影響を与える可能性があり、業界全体の注目を集めていたのです。米国では証券かどうかを判断する際に「ハウイテスト」と呼ばれる以下の4つの判断基準を設けています。金銭の投資があること共同事業に投資すること利益への期待があることその利益が主に他者の努力によってもたらされることこれと照らし合わせてXRPが証券となるかどうかが争点となっていきました。リップルとSECの裁判の始まりから終結まで2020年:リップル裁判の始まり|何が問題だったのか?2020年12月、SECはリップルが2013年以降、登録されていない証券であるXRPの販売を通じて約18億ドルを調達したと主張し、これが米証券法違反に該当するとして訴訟を提起。リップルとその共同創業者であるChris Larsen氏とBradley Kent Garlinghouse氏を相手取り、ハウイテストに照らし合わせてSECは以下のように主張しました。リップルはXRPを販売することで資金を調達し、開発を行っている投資家はリップルの努力によってXRPの価値が上昇することを期待し、購入しているXRPの価値はリップルの事業に大きく依存しているこれにより、ハウイテストと照らし合わせてXRPは証券に該当するとSECは主張。しかし、これに対してリップルは以下のように反論しました。XRPは、SECが「証券でない」としているビットコインやイーサリアムと同種の資産であり、リップルが創設する前から存在したXRPの価値はリップルの業績とは独立しているXRPの購入者はリップルとの投資契約を結んでいるわけではないSECは8年間もXRPを証券としてこなかったにも関わらず、突然方針を変更した他国はXRPを証券としてではなく、デジタル資産・仮想通貨として分類している反論こそしているものの、訴訟に発展した影響は大きく、2021年に入る頃にはXRPを取り扱わないとする取引所も出てくるなど、XRPに逆風が吹き始めました。訴訟当時、2020年末には1XRPあたり25円前後の価格で推移していました。2023年:第一審にて”画期的”な判断が下される2023年7月、提訴から3年弱経ち、第一審の連邦地裁にて部分的に判決が下されました。担当のAnalisa Torres判事による判決は以下のようなものでした。機関投資家に対する数億ドル規模のXRPの直接販売は違法な証券販売であるが、個人投資家に対するデジタル資産取引所における販売は違法とは言えないこのような判決に至った理由として、判事は以下のポイントを挙げています。機関投資家は、リップルが得た資金がXRPエコシステムの発展に使われ、その結果XRPの価格が上昇することを期待していた一部の機関投資家は、販売契約においてロックアップ条項やXRPの取引量に基づく転売制限に同意していた一方で、個人投資家向けの取引所システムによる購入はハウイテストの「他者の努力による利益の期待」してのものに当たらず、証券に該当しないため違反ではないつまり、機関投資家向けに行っていた形式の販売方式および契約は「リップルの努力による利益の期待」しての投資であるため、ハウイテストに合致し、証券と認められる。一方、個人投資家が利用する取引所システムによる売買はそのような期待を持たない投資であるため、ハウイテストに合致せず、証券とは認められない。このため、機関投資家向けのXRPの直接販売は違法だが、個人投資家向けの取引所を通じた販売は違法ではない、との判決が下されました。この判決は一部で”画期的”な判決と呼ばれ、仮想通貨業界には好意的に受け取られました。この判決が出た2023年7月、XRPの価格は70円前後だったところから1XRPあたり100円前後にまで急上昇しましたが、この影響は長くは続かず9月に入る頃には元の価格帯にまで値を戻しています。2024年:第一審の最終判決が下され控訴へ2024年8月、前年に出された判決が確定し、連邦地裁はリップルに対して約1億2500万ドルの民事罰金および米証券法違反と判断された販売方法の恒久的差止命令を出しました。この時、判事は改めて個人投資家への取引所を通じた販売は違法ではないと述べており、XRPそのものが証券かどうかではなく、販売形式や契約等が証券の判断には重要であることが強調されました。しかし、これに対して両者とも不服として控訴を行うこととなりました。この最終判決が出された際、一時的に価格が上下したものの、そこまで価格に影響はなく1XRPあたり80円前後で安定していました。2025年:和解合意と控訴取り下げ2025年6月、リップル、SECともに相手への控訴を取り下げ、リップル裁判は終結へと向かっていきました。経緯としては、2025年4月、法廷外での解決を目指すとして現在の控訴等をすべて一時中断する申請が裁判所に提出されました。この時点で両者は「原則的合意」に至っていると発表しており、最終的な解決へと向かっていることが示唆されました。その後、2025年5月、控訴審の解消と両者和解案への合意がなされたため和解申請が裁判所に申請されましたが、裁判所はこの和解申請を否認。和解申請には恒久的差止命令の解除が盛り込まれていましたが、この命令は既に最終判決として確定しているため、これを解除するには判決の取り消しを規定している民事訴訟規則60条に基づき「例外的状況」を立証する必要があると裁判所が判断したため、否認となりました。2025年6月、民事訴訟規則60条に基づく「例外的状況」を理由として盛り込んだ上で和解申請を再度申請しましたが、理由として不十分であると判断され再び否認されました。この二度の和解申請の否認の結果、和解の落としどころとして控訴の取り下げのみとなり、支払い済み罰金の返還および恒久的差止命令の解除は行われない形となりました。この結果は当初期待されていた和解とは異なる形となったためか、XRPへの価格の影響は少なく、控訴取り下げの発表後でも1XRPあたり310円前後と、発表前とあまり変わらない価格に終始しました。まとめここまでリップル裁判の概要と終結までの流れについて解説しました。この裁判ではリップルの販売するXRPが問題として挙げられただけでしたが、どの通貨が同じような問題に直面してもおかしくありません。なぜなら、リップル裁判の根本には、仮想通貨に対する規制や見解が依然として明確に定まっていないという問題があるからです。そのため、今回の裁判で判事が下した画期的な判決、販売方式や契約によって証券かどうか判断するという前例は一つの指針となっていくことでしょう。さて、リップル裁判は米国の問題でしたが、日本でも依然として仮想通貨の立ち位置が明確に定まっていない部分があります。仮想通貨はまだまだ法的な議論が尽きない技術ですので、今後どのような問題が起こるかわかりません。加えてボラティリティの大きい商品ですので、分散投資などリスクを抑えるという意識を常に持ち、余裕資金で慎重に投資することを忘れないようにしたいですね。関連記事コインチェック事件とは?経緯や原因・犯人・事件のその後を徹底解説マウントゴックス(Mt.Gox)事件とは?いつ起きた?ビットコイン消失の全貌とその後を徹底解説